2025.9.11
「地球環境科学と私」第五十七回は地球史学講座 市川 玲礼人さんによる 強さを手に入れた3週間 です.
この夏、ご縁があって3週間モンゴルに滞在し、地質調査に携わりました。めったに行く機会がないであろうモンゴルでの調査生活について綴ってみようと思います。 皆さんはモンゴルと聞いて、どんな景色をイメージしますか?馬、羊、どこまでも続く大草原…。私のイメージもまさにそんな感じでした。
写真1:見渡す限りの大草原
実際にモンゴルに足を踏み入れると、見渡す限りの大草原が広がり、馬や牛、山羊が自由に放牧されていました(写真1)。調査では、草原の中にある轍をたどるようにランドクルーザーで走り回り、露頭(岩石が露出しているところ)が見えると、そこへ向かって車を走らせます。1日に約30地点、距離にして30kmほどを走り、それぞれの露頭でみられる構造の走向・傾斜などのデータを取り岩石のサンプルを採取します。周囲に何もないので距離感が狂いますが、次に見えている次の露頭まで1km以上離れていることも珍しくなく、国内での調査のように歩いていたら日が暮れてしまいます。
調査地点から最寄りの町までは車で2時間以上かかるので、テントを張ってベースキャンプとしました。明かりひとつない場所で、満天の星空を…なんて思っていたら、日が暮れてしばらくすると嵐がやってきて、テントが飛びそうなほどの強風、大雨による雨漏り、そして追い打ちをかけるように夜中には雹まで降り始めました。
初日からこんな調子だったので、みんなの心が折れました。たまたま近くに観光用のゲルを備えた保養施設があったので、そこから数日間は快適なゲル生活です。まさにモンゴルといえば、で想像するような生活が始まりました(写真2)。ちなみにゲルは地面に直接置かれているので、外から様々な虫が侵入してきます。寝ていると天井から虫が降ってくるのは日常茶飯事。「耳から虫が入ってくるから耳栓をしなさい」と言われたときは、正直、これまでの人生でこんなセリフを聞くことになるとは思ってもいませんでした。
写真2:ゲルと夕焼け
朝になると運転手さんが遊牧民の方から牛乳とヨーグルトを買ってきてくださいました。朝、搾りたての牛乳から作られた乳製品は格別なおいしさでした。調査を終えて帰ってくると、今度はみんなでテーブルを囲んで夕食。ちなみに夕方見てみると牛乳が発酵していました。さすがに怖かったので、加熱してチーズにして食べました。とてもおいしかったです。夕食を食べると、その後はひたすら話したり、カードゲームをしたり、晴れた日には星を見たり。日本語、英語、モンゴル語が入り乱れるにぎやかな空間でした。
調査以外のことばかりになってしまいましたが、名古屋走りなんて足元にも及ばない運転、胃袋を直接攻撃してくる脂身の塊、圧倒的なスケールの露天掘り鉱山、吉野家の羊丼、馬が駆け回る調査エリア…。ここには書ききれないほど、日本では経験できないことばかりの生活でした。この夏、いろいろな意味で強い人間になれたと思います。