2024.1.24
「地球環境科学と私」第四十二回は地球惑星物理学講座 森 亜津紗さんによる 自分の興味を追求して です.
地球惑星物理学講座に研究員として在籍しています、森といいます。火山噴火に伴って観測される地震波について研究しています。私が火山研究に携わることになった経緯と現在までの歩みについて、簡単にご紹介したいと思います。
私は元々文系学部の出身で、学部生時代は社会科学的な手法に基づいて環境保全や生態系保全について学んでいました。地球科学に興味を持ち始めたのは、学部2年生の時です。講義を通して、地球科学史や地形学に触れたことがきっかけでした。色々調べていく中で、噴火の発生原理や火山活動が人間社会や周辺地域の生態系に与える影響に興味を持つようになりました。しかし当時所属していた大学内では、それ以上深く地球科学に関連する知識を学ぶことができなかったため、進路変更を検討するようになりました。その中で名古屋大学環境学研究科の大学院説明会に参加し、地球惑星物理学講座を訪問したことが今に至る道の始まりです。地震波形を使って火山を研究するという方法に興味を持ち、大学院入試を受けました。何とか無事に合格できてとても嬉しかったことを今でもよく覚えています。
大学院入学後はまず、噴火時に観測される地震波形と噴煙高度の関係を調べることから研究が始まりました。色々な火山の観測データを比較する中で、地震散乱波が卓越する高周波数帯に着目すると地震振幅の大きさと噴煙高度の間にスケーリング関係が成り立つことを発見しました。今に至るまで、このときの発見が研究を続ける上での核になっています。その後は、上記の関係が成り立つ理論的な背景について調べるとともに、高周波地震振幅の大きさから噴煙高度を推定するシステムを開発しました。また大学院では、国際学会での発表に加え、フィリピン、エクアドルやコロンビアの研究機関との交流や共同研究の機会があり、現地でのフィールドワーク・観測施設の巡検やセミナー発表などを経験しました。火山防災や研究への意識が高まったとともに、他国の文化に触れることで自分の視野の狭さに気づかされました。今振り返ると、大学院の5年間は単に研究者としてだけではなく、自分が人として成長する上で非常に重要な期間であったと思います。現在は、地震波形の形状に着目して、噴火の継続時間の予測や噴火様式の分類に有用な指標がないか調べています。今後は噴火時以外に観測される火山性地震の解析にも取り組むことで、噴火の自動検知や噴火の発生過程の理解に役立つ発見ができれば良いなと考えています。
このように私の場合は、自分の興味のあることを追求して研究を続けてきました。ここまで続けてこられたのは、たくさんの人の助けがあったのはもちろんのこと、研究活動そのものが楽しかったからだと思います。結果はどうであれ、自分のやりたいことを見つけたら納得するまで挑戦したほうが、後悔なく前向きに生きていけるのではないでしょうか。これまで様々な機会をいただけたことに感謝しつつ、この先も研究を続けていけるよう頑張っていきたいと思います。
爆発的な噴火の概念図(左)と噴火に伴って観測される地震波形(右図, Mori & Kumagai, GJI, 2019より引用)。連続的な噴煙上昇が長時間維持される噴火では(a) のような地震波形が、キノコ雲状の噴煙が単発的に上昇する噴火では(b)のような地震波形が典型的に観測される。