2022.3.5
「地球環境科学と私」第三十四回は大気水圏科学講座 河合 慶 さんによる 名大での2回のターニングポイント です.
私は今、ポスドク(博士号を所持している任期付き研究員)として名古屋大学に所属しています。名古屋大学には、学部(理学部地球惑星科学科)から修士・博士課程(環境学研究科地球環境科学専攻)、ポスドクの現在まで12年間所属しており、気づけば干支が1周していました。この間、私の研究生活において、ターニングポイントが2度ありました。今回は、私の名大での研究活動を少しだけ紹介しつつ、その2回のターニングポイントについて書き記したいと思います。研究者を目指している高校生や学部生・院生の皆さんの参考になれば幸いです。
名大での1回目のターニングポイントは、学部4年次の研究室配属の直後でした。地球惑星科学科では、3年生の1月頃から研究室配属の希望調査と面接などが行われます。私は入学時から気象学に関する研究をしたいと思っており、3年次に履修した「大気水圏フィールドセミナーI」を当時担当されていた甲斐憲次先生の研究室に入ることにしました。この授業では、名古屋港で様々な気象観測装置を使い、濃尾平野の海陸風について2班24時間体制で観測を行いました。私は生まれも育ちも名古屋であるため、濃尾平野の局地気象(夏の猛暑や集中豪雨、冬の降雪など)に興味があり、甲斐研究室ではこのことについて研究するつもりでいました。しかし、配属された当時、甲斐研究室のもう1つの研究テーマである海外での黄砂観測プロジェクトが始動しており、そちらに参加することになりました。初めは、博士課程の先輩2人のお手伝いのつもりでいましたが、紆余曲折を経て、甲斐先生と私の2人だけでモンゴルのゴビ砂漠(黄砂の発生源の一つ)に観測装置を設置することになりました。私にとって2週間半のモンゴル滞在が初海外になり、ゴビ砂漠の町での日常的な停電や舗装されていないデコボコの道路に衝撃を受けましたが、学部2年次の「地質調査」やサークル(天体研究会)の合宿で似たような環境には慣れていたため、なんとかミッションを終えることができました。その後も年1~2回のペースでモンゴルに行くことになり、卒業論文・修士論文・博士論文は最初に設置した観測装置のデータを使って書き上げることができました。毎回疲弊して帰ってくるモンゴル出張でしたが、研究室の後輩や他大学の先生・学生さんと一緒に観測をしたり、モンゴルの気象庁の部長さんや気象研究所の研究員の方たちと顔なじみになれたのは、良い思い出です。
2回目のターニングポイントは、ポスドク2年目の6月でした。博士号取得後もモンゴルでの黄砂観測を中心に研究を行っていましたが、同じ講座の松井仁志先生からエアロゾルの数値シミュレーションに関する研究に従事するポスドクを募集しているというお話をもらいました。一般的に、シミュレーションはプログラミングのスキルが必要になるため、ハードルが高いイメージがありますが、私は学部3年次の「数値解析法及び演習」でプログラミング言語のFortranを習得し、観測結果の解析などに使っていたため、そのハードルは低くなっていました。現在も松井研究室でポスドクを続けており、これまでの黄砂観測の経験を活かしつつ、黄砂や氷晶核に関するシミュレーションを行っています。シミュレーションの研究を行っていく中で、逆に以前の観測や解析を発展させるアイデアも出てきています。将来的には、観測とシミュレーションの両方を扱えるハイブリッドな研究者を目指していきたいと思っています。
皆さんも、変化を恐れず、舞い込んでくるチャンスをものにし、「勇気ある知識人」を目指してみてはいかがでしょうか。