トップページ > 新着情報 > 新着情報詳細

新着情報

「地球環境科学と私」第三十二回

2021.11.30

「地球環境科学と私」第三十二回は地球惑星ダイナミクス講座 市原 寛 さんによる 小笠原諸島から琉球諸島への漂流とSNS です.


小笠原諸島から琉球諸島への漂流とSNS 地球惑星ダイナミクス講座 市原 寛 

2021年11月現在、琉球諸島への大量の軽石の漂着が社会問題となっています。この軽石は2021年8月に福徳岡ノ場と呼ばれる場所で起きた噴火によるものと考えられています。福徳岡ノ場は小笠原諸島の南硫黄島の北方にあり、新島の形成と海没を繰り返しているそうです。この場所から西に数千キロメートル離れた琉球諸島まで軽石が大挙して流れてくるというのはちょっと不思議に思われるかもしれません。


地球環境科学専攻

西表島に漂着したOBEM。西表島エコツーリズム協会撮影。論文に掲載*2

このような漂流は1986年の福徳岡ノ場の噴火などでも知られていますが、ここでは私が関わった話をしたいと思います。私も参加している海洋研究開発機構を主体とする研究チームは、西之島(小笠原諸島父島近くにある火山島)付近の海底に電磁場を測定する機器(OBEM)を2018年に設置しました。何らかの理由によりOBEMは行方不明になっていたのですが、少しして遠く離れた西表島に漂着していることが分かりました(写真)。どうも、海面を漂流し、最終的に西表島に漂着したようです*1。西之島は福徳岡ノ場よりも北にあり、西表島は琉球諸島の南西端近くにあるので、より不思議な経路を辿ったと考えられますが、漂流のシミュレーションによるとあり得る話だそうです。これらの具体的な話は論文に記載していますが*2、大局的には黒潮反流という西向きの海流に乗りつつも紆余曲折を経てたどり着いた可能性が高そうです。福徳岡ノ場の軽石もこのように流れてきたのでしょう。


興味深いのは、これらの機器の発見がSNSを通じて行われたという話です。OBEMは西表島の海岸にて清掃作業を行っていた住民(西表島エコツーリズム協会)の方が発見されました。西表島の海岸には大量の漂着物が集まるようで、いつも清掃と集まったゴミの処理に苦労されておられるようです。協会の方が、見つかったOBEMに関しての情報をFacebookで投稿したところ、海底に設置して観測を行う機器であるという情報と、名古屋大学の私がこのような海底機器を扱っているとの情報を瞬く間に入手されたようで、私にメールを送られました。メールに添付されていたOBEMが海岸に打ち上げられている写真を見て非常に驚いた記憶があります。その後、別のルートからも次々と我々の元に連絡が入りました。今更ながら時代の流れを感じると共に、これまで私的にしか使っていなかったSNSを研究のツールとして使えないかと考え始めた次第です。


そのように考えていたら、既にこのようなSNSの利用は活発に行われている様子です。福徳岡ノ場からの軽石の話に戻りますが、twitterなどを見ると、福徳岡ノ場が噴火した当時から軽石が大量に噴出している話がSNS上で話題に上がっていたようで、最初に北大東島で軽石の漂着が確認された日(10月5日)からも地球科学者の間で色々なやりとりがあり、研究に関する情報を得ている様子が見て取れます。詳しくは下記のリンク、またはその先のリンクをご覧ください*3。 SNSへの過度な依存も考えものですが、それでも時代に取り残されないように、このような情報にも目を向けながら研究を進めていくことが重要と考える今日この頃です。最後になりましたが、今回のOBEMの発見は地道に海岸を清掃されている住民の方々の協力によるもので、深く感謝を述べたいと思います。



*1 OBEMはその自重により海底に固定されていますが、通常は観測が終わると研究船などで回収します。具体的には、船から信号を送ってOBEMに取り付けている錘を切り離し、それによって得た浮力で海面に浮上させ、それを船から拾うというオペレーションを行います。しかし、火山活動か何かの要因で、意図しないタイミングでの浮上が起き、そのまま海流に乗って海面を漂流したようです。



*2 Tada, N., Nishikawa, H., Ichihara, H. et al. Drift of an ocean bottom electromagnetometer from the Bonin to Ryukyu Islands: estimation of the path and travel time by numerical tracking experiments. Earth Planets Space 73, 224 (2021). https://doi.org/10.1186/s40623-021-01552-8



*3 http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/fukutokuokanoba/column02/



  • 地球環境システム講座
  • 地質・地球生物学講座
  • 地球化学講座
  • 地球惑星物理学講座
  • 地球惑星ダイナミクス講座
  • 地球史学講座
  • 生態学講座
  • 大気水圏講座

学生の皆さんへ

学科のご案内

リンク

名古屋大学 NAGOYA UNIVERSITY

名古屋大学大学院 環境学研究科

名古屋大学理学部

大気水圏科学系

名球会

名大地球ツイッター

名大地球フェイスブック