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「地球環境科学と私」第二十九回

2021.5.21

「地球環境科学と私」第二十九回は地球環境システム講座 西田 亮也さんによる 宇宙農業から持続可能性を考える です.


宇宙農業から持続可能性を考える 地球環境システム講座 西田 亮也 

「2040年までに1000人」、この数字はJAXAや民間企業が掲げている月面に暮らす人数を示しています。この数字が現実的かどうかという議論はあると思いますが、少なくとも私は実現したいと思っていますし、そのうちの1人になりたいと強く願っています。そもそも月に人類が住むためには、当然ながら衣・食・住の確保が必要不可欠です。その中でも、私は特に「食」に注目しています。現在、既に宇宙飛行士が長期滞在している国際宇宙ステーションの「食」は基本的には、地球からの定期的な食糧補給によって賄っています。その運搬にかかる費用は1 kgの物を宇宙に運ぶのに、およそ100万円かかると言われています。野菜を1日に350g食べるとすると、1ヶ月で約10kgとなり、輸送にかかる金額は約1000万円です。国際宇宙ステーションよりさらに遠い月面までの輸送となると、これの何倍になるか想像がつきません。これでは、人が持続的に生活していくのは難しく思えてしまいます。こうした背景から、輸送するのではなく、現地の資源を活用して現地で野菜を栽培するということが考えられています。


地球環境科学専攻

図1:模擬月レゴリス

そうした中で、私は「土壌」を創り出すことで高効率かつ循環型な食糧生産システムを構築するという研究をしています。上述した月面にも、レゴリスと呼ばれる細かな土は存在していますが、植物を育む「土壌」ではありません。(図1)宇宙での生活で排出する生ゴミや排泄物などの有機物を混ぜ込んでも、腐ってしまうだけで植物を上手く育てることはできません。「土壌」とは、「植物の栄養となる無機養分を生成する機能を備えるもの」のことを指し、地球上では自然土壌だけがその機能を有していました。私は、この「土壌」を宇宙で創り出したいと考えています。月や火星のレゴリスに微生物を付加することで「土壌」を創り出し、無機養分の生成量が最大、作物の収量が最大となるような土の生物性、物理性、化学性をデザインすることを目標として研究しています。宇宙という環境において、効率的に資源を循環・活用していくことで、月面での人類の暮らしを実現できると考えています。


地球環境科学専攻

図2:植物炭による栽培

さらにこの技術を用いた循環型農業は地球上においても大いに活躍する可能性があります。現在の農業では、化学肥料や農薬の施用過多、森林伐採や焼き畑などで環境負荷が非常に高くなってしまっています。これから地球でも同様に、人々が生活をしていくためには持続可能なことが必要不可欠となる時代が来ると考えています。そのため私は、廃棄されてしまっている有機質肥料を高効率に利用することに加えて、微生物の担体に植物炭を用いるというアプローチで土壌として炭素を固定していく、カーボンニュートラルを超えたカーボンマイナスで持続可能な農業システムの確立を目指しています。(図2)


私は、自分の研究をいかにして社会実装していくかを考えた結果、起業をするという選択をしました。(図3)近年、SDGsや環境問題に注目が集まっているという社会的な潮流も相まって、少しずつではありますが理想の実現に一歩ずつ着実に近づいていると感じています。地球環境科学の分野はまだまだ発展途上であるものの、社会的なニーズが高まりつつあるため、今後様々なブレークスルーが生まれてくると思います。私はまだ、その一歩目を踏み出しただけですが、大学院の受験を考えている学生の皆さんの将来を考える際に、少しでも参考になれば幸いです。

地球環境科学専攻

図3:創業メンバー



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