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「地球環境科学と私」第十九回

2020.3.9

「地球環境科学と私」第十九回は大気水圏科学講座 篠田雅人さんによる 気候メモリを調べて、自然災害を予測する です.


気候メモリを調べて、自然災害を予測する 大気水圏科学講座 篠田雅人 

私はこれまで世界の乾燥地を対象とした研究を行ってきましたので、それに関連した科研費基盤研究(S)によるプロジェクト「乾燥地災害学の体系化」(通称、4Dプロジェクト、2013-2017年)についてお話しします。乾燥地は世界の陸地の約4割を占め、そこに世界人口の3分の1の人々が暮らしています。乾燥地の災害である、砂塵嵐、干ばつ、砂漠化、ゾド(モンゴル語で寒雪害)を、その英語訳の頭文字をとって4D災害とよびます。4D災害を干ばつとそれから派生するものの災害群としてとらえ、ひとつのリスク評価の枠組みを構築するのが、本研究のねらいです。


その研究成果のひとつとして、「気候メモリ」に注目することによって、4D災害の体系的理解と予測が可能であることがわかり、この視点から、モンゴル国全土を対象としたゾドリスクマップを2015年に初めて開発しました。ゾドはモンゴル語で、冬・春の草地や天候の悪条件のため、放牧家畜が多量に餓死する災害を意味します。ゾドリスクマップを用いた早期警戒・早期行動を、モンゴル緊急事態管理庁や赤十字社などの国際援助機関と連携して行うことによって、モンゴル国の基幹産業である牧畜業への被害を抑えてきました。 


降水量などに応じて形成される地表面状態の偏差(平均的な状態からのずれ)のことを気候メモリとよびます。もう少し厳密に定義すると、気候メモリとは「大気の物理量(気温・水蒸気量・降水量など)における季節変化成分あるいは経年変化成分の偏差を、その発生以降、引き継ぎ、保持する地球表層における大気以外のサブシステムの働き」となります。この役割を担うサブシステムとして、植生、土壌水分、雪氷、海洋などがあげられます。これらのサブシステムが相互作用するなかで、地球表層環境というシステムが形成されているのです。


気候メモリについて、モンゴルを例にとり、具体的にお話ししましょう。2019年度、博士前期課程を卒業した伊藤優斗君がモンゴル高原の草原火災について修士論文をまとめましたので、それを紹介します。気象・衛星データの解析により、夏の雨が多いと土壌水分(PDSI)が多く、それを利用して成長する植生や枯れ草が多く、これが燃料となって草原火災が広がりやすいことがわかりました(図1)。夏が干ばつの場合は、その逆で、枯れ草が少ないため、草原火災が少ないのです。この現象は、モンゴル高原のなかでも、人口が少なく、人為的影響が小さいと考えられるモンゴル国東部で顕著にみられるため(図2)、自然状況下で気候メモリが伝播しやすいものと推察しました。

 プロジェクトの一連の研究から、春の草原火災のみならず、同季節に発生する砂塵嵐やゾドといった多様な自然災害は、前年夏からの土壌水分や植生といった地表面状態の偏差を追跡することによって、予測や早期警戒が可能であることがわかったのです。


地球環境科学専攻

図1:春の草原火災の発生モデル(伊藤優斗: 2019年度修士論文)。前年の気候メモリばかりでなく、春の降水量も燃焼面積に影響を及ぼす。

地球環境科学専攻

図2:草原火災後の植生回復(右)。非火災草原には枯死部分(茶色)があるのに対し(左)、春の火災後の草原では、夏の雨により、燃え残った地下茎から新芽(緑色)が出てきている(右)。2015年8月14日撮影。


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