2018.11.2
この研究では、噴火の前に活発化する低周波地震(LPイベント(注1))の震源における流体の状態を推定する手法を開発し、草津白根山(群馬県)およびガレラス山(コロンビア)で発生したLPイベントに適用しました。その結果、両火山において震源のクラック(注2)のサイズとその中にある流体の特性が同時に時間変化していたこと、さらにLPイベントの発生には水蒸気の凝縮や貫入したマグマの破砕(注3)が関与していたことが推測されました。この成果は、マグマや熱水の状態の監視や噴火の予測に貢献するものです。本研究は、米国科学誌Journal of Geophysical Research: Solid Earthに掲載されました。
火山では、噴火の前にマグマや熱水などの火山性流体が供給されることで、地震や地殻変動、さらに火山ガス成分の変化など様々な現象が起きます。こうした現象を調べることは、噴火の前兆を捕らえることにつながります。火山で観測される地震の中で、割れ目が振動することで発生すると考えられているのがLPイベントです。LPイベントの波形の特徴(減衰率や振動周波数)は、振動体のサイズやその中に含まれる流体中の音速や密度など(流体特性)によって変化します。本研究では、最近提案されたクラックの振動周波数の解析式を用いて、LPイベントの波形の特徴から震源にあるクラックのサイズや流体特性を推定する手法を独自に開発しました。さらにこの手法を用いて、草津白根山とガレラス山で発生したLPイベントを解析しました。その結果、振動を起こしている流体としては、草津白根山は小さな水滴(ミスト)を含む水蒸気、ガレラス山は火山灰(ダスト)を含むガスであることが推定されました。さらに両火山でクラックのサイズと流体特性が大きく時間変化していたことも分かりました。これらの結果からLPイベントの発生過程として、草津白根山においてはマグマから脱ガスした水蒸気が割れ目の周りある地下水で冷却され凝縮したことによるミストの生成、ガレラス山では発泡したマグマが貫入し破砕したことによるダストの供給が推測されました。この手法は、火山性流体の状態の監視や噴火の前兆現象の研究に活用することができ、それらを通して噴火の予測に貢献するものです。
本研究は、科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)の地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「コロンビアにおける地震・津波・火山災害の軽減技術に関する研究開発」による研究事業の一環で行われました。
(注1)LPイベント
火山で観測される地震の一つで、マグマや熱水といった流体を含む割れ目などの振動により発生すると考えられている。
(注2)クラック
LPイベントの震源モデル。固体中に存在する流体を含む板状割れ目。
(注3)マグマの破砕
水蒸気などの揮発性成分を含むマグマが上昇し減圧されると、揮発性成分がガスとなりマグマの中に泡(バブル)が出来る。さらに減圧されバブルが成長すると、周りを囲むマグマが粉々に砕け散り火山灰となる。これを破砕という。
Taguchi, K., Kumagai, H., Maeda, Y., & Torres, R. (2018). Source properties and triggering processes of long-period events beneath volcanoes inferred from an analytical formula for crack resonance frequencies. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 123, 7550-7565. https://doi.org/10.1029/2018JB015866